原発事故により少なくとも3万人以上が現在も福島県外で避難生活を続けている

 原発は事故を起こさない。東日本大震災の発生以前には、そんな安全神話が信じられていた。しかし2011年3月11日に事故は起き、放射性物質が東日本の広範な地域に飛散した。

 福島第一原発事故から8年がたついま、飛散した放射性物質は「たいしたことはない」「健康影響はない」とされているが、はたして本当だろうか。

 原発事故後、新しく発見された「セシウムボール」という放射能汚染物質がある。セシウムが含まれた未知の微粒子で、'17年にNHK「クローズアップ現代」で取り上げられ、話題になった。いったいどういうものなのか。研究者に話を聞いた。

東京も通過した『セシウムボール』

 '13年、気象研究所の研究チームのひとりである足立光司氏が発表したセシウムボール。水に溶けない性質を持ち、放射性セシウムを含み、放射線を多く出す微粒子だ。過去に研究のない「未知の領域」として、多くの学者が研究を進めている。

 その1人、九州大学の宇都宮聡准教授(理学博士)は、米国、英国、フランスと国内の学者との共同研究チームを組み、6本の論文を発表した。

 宇都宮氏は、アメリカ・ミシガン大学の原子力工学科で放射性物質や原子力の専門知識を学んだ経歴を持つ。原発事故が起き、その知識が役に立つのではないかと考え、研究に着手。'16年に最初の論文を発表する。

 宇都宮氏が率いる研究グループは、福島第一原発から230キロ離れた東京都内の大気エアフィルターからセシウムボールを見つけた。東京都では'11年3月15日午前10〜11時に放射能のピークが観測されている。その同時刻のエアフィルターを分析したのが左下の写真だ。黒い粒は放射性物質の存在を示しているが、その約9割がセシウムボールであると判明している。

 このセシウムボールの構造分析も実施。すると、原発事故で溶けた核燃料がコンクリートと反応してできたこともわかった。核燃料は原子炉の圧力容器を突き抜け、格納容器の底のコンクリート部分に溶け落ちて固まった。

 これは「燃料デブリ」と呼ばれ、廃炉作業を進めるうえで大きな問題になっている物質だ。セシウムボールは、まれに燃料デブリの小さな破片を取り込みながら、周りの環境に飛んでいくと考えられる。

 それを裏づける研究もある。

「圧力容器が破損したケースの実験によれば、溶けた燃料とコンクリートが反応したときにセシウムボールと似たような微粒子ができることが報告されている」(宇都宮氏)

 さらに二次イオン質量分析という手法で詳細に分析を行ったところ、放射性物質の含有比率や、原発の何号機から放出されたセシウムボールなのかなどもわかってきた。